公務員は職務に専念する義務がある
公務員の副業については、近年様々な議論がなされています。公務員は国民全体の奉仕者としての使命を持ち、主たる職務に専念することが求められています。一方で、副業によって得た収入は生活の安定に役立ち、また副業を通じて得た知見は本業の業務にも生かすことができるメリットがあるとの指摘もあります。
公務員の副業を緩和する動きもある
公務員の副業をめぐっては、過去にも制限緩和を求める動きがあったものの、国家公務員法では原則として副業が禁止されています。しかし最近では、デジタル化や働き方改革の流れもあり、公務員の副業に一定の制限の範囲で容認する方向で議論が進んでいます。
2020年に人事院が、公務員の副業、兼業に関する新たな指針を定めました。これにより、一部の条件を満たす場合に副業が認められるケースが広がりました。素行が良好で本業に支障がなく、所属長の許可を得た上で、政治活動や公務員の信用を失墜させるような副業以外なら認められる場合があります。
ただし、認められる副業にも一定の制限が設けられています。営利を目的とする副業は認められず、ブログなどの執筆活動にも一定の制限が設けられています。認められる副業の例としては、大学での非常勤講師、翻訳、医師の当直などが挙げられています。
公務員の副業を認めるメリット
副業を容認するメリットとしては、以下の点が考えられます。
- 公務員の専門性を活かす機会が増える
- 最新の知見を副業を通じて吸収でき、本業の業務能力向上につながる
- 社会貢献の幅が広がる
- 家計の補助等にもなり生活の安定に役立つ
公務員の副業の課題
一方で、課題としては次のような点があります。
- 本業に専念するという公務員の使命に反するのではないか
- 公平性が損なわれるのではないか(天下りの温床になる等)
- 守秘義務に反する情報漏洩が起きるリスクがある
- 公務外の時間を副業に捧げることで健康を害する恐れがある
このため、副業の許可には細心の注意が必要とされています。
公務員の副業をめぐる論点
公務員の副業をめぐる論点としては、以下のようなものがあります。
- 許可制か届出制か
許可制の方が副業内容のチェックがしやすい一方、事前のチェックに手間がかかる。
- 営利目的の副業はどこまで許容するか
副収入の機会を得られる半面、天下りの温床になりかねない。
- 所属長の裁量権はどの程度認めるか
組織の実情に応じた柔軟な運用とするか、一律の基準を設けるか。
- 副業から得た収入の上限を設けるべきか
収入が多すぎると本業へのコミットメントが疑われかねない。
- 認められる副業の範囲をより拡大すべきか
副業のメリットをより享受できる反面、弊害も広がりかねない。
- 許可にあたっての審査基準をどうするか
チェック項目が多いほど事務が複雑になる。
公務員の副業はまだまだ議論の段階
このように、公務員の副業を巡っては様々な角度からの検討が必要です。副業を完全に禁止するのではなく、一定の範囲内で容認していく方向性が望ましいとする意見が多い一方、その範囲設定は慎重に行うべきだとの指摘もあります。
公務員副業をめぐる議論は、単に公務員のみを論じるのではなく、社会全体の働き方改革の流れとも密接に関わってきます。副業が今後ますます増加すると考えられる中、公務員に限らず多様な形で副業が認められつつある流れは、公務員の副業についても制限を見直す方向に働くと見られます。
一方で、公務員には国民全体への奉仕者としての使命があることから、プライベートな企業労働者以上に公共の利益確保の観点から一定の制限が必要だとの意見も根強くあります。
今後も引き続き、公務員の使命と副業のメリット・デメリットを天秤にかける形で、適正な範囲での副業容認に向けた制度設計が議論されていくことになるでしょう。
以上、公務員の副業をめぐる論点と現状について概観しました。公務員の副業はメリットと課題があり、適正な範囲の設定が難しいテーマではありますが、柔軟な議論を重ねることで、公務員の使命と副業の良い部分を両立するための方策が見出されていくことが期待されます。
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